食い別れ

葬儀においては飲食が重要な意味を持っています。
例えば「通夜振る舞い」と言われる通夜の飲食、出棺に際して
(最近は、葬儀式に先立っての場合も多い)の「出立ちの膳(ワカレノシ、タチメシ、ナキワカレなどとも言う)」、
火葬後の「精進落とし(精進上げ、仕上げ、忌中祓い、お斎などとも言う)」があります。

飲食は人間の交わりを象徴するものですから、死者と食事を共にすることによって、死者と最後の交わりをし、
別れを行ったものと考えられます。したがって、こうした飲食の席では、しばしば死者用にもお膳が用意されます。
神と食事をすることで神の力をわが身に取りこむ、神人共食の観念が影響しているとの考えもあります。
今では、死者の供養のための振る舞いや、葬儀を手伝ってくれたり、わざわざ参列してくれた人へのお礼の意味が強調されていますが、
以前はそうした意味に加えて死者との食い別れという性格が色濃くあったものと思われます。

また、飲食は、死者の魂を鎮め、死の穢れに対抗し、これを祓う力があると信じられていたようです。
柩を担ぐ人、湯港する人、納棺する人、墓穴を掘る人、こうした人々は死穢に強く染まると考えられ、しばしばこうした役割を担う人へはご馳走が振る舞われました。
四十九日の忌明に作る「四十九(日)餅」は、他界に転ずる死者の霊との最後の食い別れとも、
忌明を期した清めの意味があるとも言われます。

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